2006FIFAワールドカップ™〜さよなら、ジーコJAPAN〜


さて、4年間にわたるサッカー日本代表ジーコJAPAN」の戦いが先日、幕を閉じた…
ここでは自分の頭の中を整理する意味でもW杯での戦いぶりについて感想を述べてみたい。
もちろん結果が出た上でのことなので好き勝手言えるし世間でも散々語られていることなのでウケウリになってしまう内容もあるかもしれないが所詮はチラシの裏ということでご容赦いただきたい。

「グループリーグ敗退」は至極妥当な結果

まず驚いたのがオーストラリア戦の敗北に対する世間一般の反応である。
…そんなに落胆することか?
ジーコが目標として言明していた「ベスト4」を真に受けていた人はさすがに多くはなかっただろうが、「グループリーグ突破は難しい」というのが大勢の見方であると私は認識していた。
それが、マスコミの煽動によってなのかどうか、「いける、勝てる」という思いがいたずらに増殖してしまっていた感がある。
もちろん、日本国民としてそれを代表するチームが勝利し、歓喜を分かち合えるよう心から願うことはごく当たり前のことであり、そう思えるというのは幸福なことである。


かくいう私も、4年前の日韓共催大会の時分には今とは比べ物にならないほどの熱狂の中にあった。
わざわざレプリカTシャツに着替えてテレビの前に端座し、日本が得点を挙げれば絶叫して喜びをあらわにしたものであった。
それが皮肉なことに、そのW杯の試合(メキシコ−エクアドル戦)をはるばる宮城まで観に行ったのがきっかけでW杯が終わってからも浦和レッズの試合にしばしば足を運ぶようになってからは、私の心がみるみる赤く染まっていくと同時に、ジーコジャパンのサッカーに今ひとつ魅力を感じられないこともあって、日本代表への興味が次第にそがれてゆき、それはある意味では不幸なことでもあった。
まあこの際私個人のことなどはどうでもよいのであるが、そうしたエクスキューズがあろうがなかろうが、「あのアジア予選」を見た上で本大会にさらなる上積みを期待するほうが間違っていやしないか、ということを言いたい。

「武器」を持たずに戦った日本

4年前のトルシエジャパンには「フラット3」という明確なキーワードがあって、要はとりわけ守備に関しては約束事を設けてそれを徹底するという、いわゆる組織力を標榜した戦い方であった。
この方針は日本人の実直さという特性を見込んだ上に成り立っているもので、諸刃の剣とも言われたその戦術そのものについてはともかく、チーム作りという面ではある程度の評価を受けていたように思う。
翻って、ジーコジャパンの方針とは何だったか。
「自由な発想で攻撃的に。中盤の速いパス回しを中心に組み立てて崩す」
こんなところだろうか…
なるほど、中盤には中田、中村、小野、稲本の「黄金のカルテット」を中心に絢爛たるタレントが揃っており、「世界」を知っている彼らの能力をもってすれば具体的な戦術などなくともクリエイティブな攻撃で強豪国をも凌駕できるという寸法である。


だが蓋を開けてみるとどうだろう。
オマーンバーレーンシンガポール北朝鮮。「格下」と目されたこれらの国々を相手に華麗なパス回しで翻弄できた試合がいくつあったのだろうか。
とはいえ結果的には死に物狂いでこれらの相手をいずれも辛勝で下し、いち早く本大会出場を決めた、いや、「決めてしまった」日本であった。
しかしその実像はジーコが思い描いていたようなチームとは全く違ったように見えた。
始めから「理屈じゃない。魂で勝つんだ。大和魂で勝つんだ!」と言ってもらってこの結果ならまだわからないでもないのだが…
一体日本チームの何が他より優れているのか?ジーコジャパンの武器とは何なのか?このチームに主義・主張はあるのか?
アジアの国々との戦いを見るに、少なくとも私にはわからずじまいであった。
同時に、アジア予選を突破した時点でジーコは役目を果たし、最低限の面目は保った、とりあえずお疲れ。そう思ったものである。
予選がこの内容で、本大会でも勝ち進んでいくということはまず考えられない。グループリーグ突破とでもなればそれはいよいよジーコの神通力のなせる業だろうと考えていた。


だからなおのこと、今回のグループリーグ敗退という結果を受けて必要以上に落胆・憤慨し、誰それが戦犯である!と執拗に叩いたり、日本サッカーはおしまいだとまでのたまう御仁が多いことに驚いたのである。

あえて言おう、「選手はよくやった」と!

とにかく「決定力不足」と揶揄され続けた日本のFW陣。ここで、その所属クラブチームにおける直近シーズンの得点成績をまとめてみよう。

氏名 所属 得点/出場試合数
高原直泰 ハンブルガーSV/ドイツ 1得点/28試合
巻誠一郎 ジェフユナイテッド市原・千葉 9得点/15試合
柳沢敦 鹿島アントラーズ 3得点/5試合
大黒将志 グルノーブル/フランス2部 5得点/17試合
玉田圭司 名古屋グランパスエイト 1得点/12試合

※リーグ戦・カップ戦の合計。


これを見るに、巻誠一郎以外についてはお世辞にも「点取り屋」と呼べるレベルではない。
柳沢敦の得点率は高いがこれはご存知の通りケガのために今年に入ってから5試合にしか出ていないという意味なので能力がどうこうという以前の問題である。


代表チームにいきなり入ってフィットできるかどうかという問題もあるので、一概にクラブチームで調子のいい選手を入れればいいというわけではないのは理解できる。
またジーコはFWの選考基準について、「これまでの代表への貢献度」という言葉を残しているので、つまりは「ゴールの量より質」という観点で選んだメンバーと捉えたほうがよさそうだ。
それにしても…と言いたくなる数字だ。わざわざ得点する確率が低い選手を集めているのではないかという気すらする。
しかも数字だけ見れば最も得点の臭いがする巻はいよいよ手詰まりとなったブラジル戦まで起用されることはなかった。というより、得点率の悪い選手から順番に出しているような状況である。
ここまで考えて、遅ればせながら私はもっと早い段階で発想の転換をしておかなければならなかったことに気づく(もちろん賢明なサッカーファン諸氏であればとうの昔にその転換は完了していたと思われるのだが)。
私たちは彼らに得点を期待してはならなかったのだ。
では、彼らに期待すべきこととはなんだったのか…?
その答えを実に鮮烈な形で示してくれたのが、柳沢敦という選手である。


日本国中を失意のズンドコに陥れた、あのクロアチア戦の決定的シュートミス。
おそらくはあの試合の翌日、柳沢は全国の学校や職場で集中砲火を浴びせられたに違いない。
しかし、よく考えてみてほしい。


柳沢ってああいう選手でしょ?


これまでも、いわゆる「へなぎサイクロン」を筆頭に数々のファンタジックなプレーを見せつけてきた彼である。
かのクロアチア戦にしても、彼は自分本来の力を発揮したまでなのだ。
私たちはあのプレーをこそ待ち焦がれていなければならなかったのである。
これは皮肉でもなんでもなく、ワールドカップ本大会という最高の舞台であのスーパープレーを繰り出してしまえる彼の天性の才能に賞賛を送りたいと思う。
柳沢に限ったことではない。ゴールキーパー川口能活にしても、「神セーブ」で幾度もチームのピンチを救った反面、「やらかし系飛び出し」もきっちり披露して持ち味を存分に出したし、その他の選手も概ね持てる力を発揮できていたように思う。
たまたまその結果がグループリーグ敗退であっただけで、何も悲観することはないのだ。本大会で勝ち進めるような選手選び、チーム作りがされていなかっただけのことだ。

提言〜そしてオシムジャパンへ?

こうして、お笑いチームとしてならばかなりの好成績を残したと思われるジーコジャパンとは別れの時がやってきた。
願わくば4年後、再び手に汗握る戦いを見せてもらうために、いくつか言わせてもらいたいと思う。

「海外組」の幻想を捨てよ

近年はサッカーに限らず日本選手のグローバル志向が強くなり、移籍への道筋もかなり整備されて平易になった感がある。
反面、いわゆるジャパンマネーをあてこんだオファーが多く舞い込むようになり、ホイホイとついていったあげくロクに出場機会もないまま客寄せならぬ金寄せパンダに終わっているケースが少なくない。
「海外組」も随分と増えたが、彼らが今Jリーグに戻ってきたとして果たしてどれだけの仕事ができるというのか?
ベンチを温めるためにノコノコと海外に出て行くな!海外で干されるぐらいならJリーグに毎試合出て仕事しろ!「むしろ鶏口となるも牛後となるなかれ」とはよく言ったものだ。
また海外組ってだけでサッカーやってない選手をいちいち代表に呼ぶな!
ブラジルに負けたそばから宮本恒靖の海外移籍話が報道されて呆れたが、まあ決まったことならせいぜいがんばってくださいとしか言いようがない。ただ行くからにはレギュラー掴んで俺たちを黙らせてみろと。

弱さを認め、創意工夫せよ

今回の結果で、前回のW杯がいかにスペシャルな大会であったかが理解できたと思う。
ベスト16という結果は地元開催のアドバンテージを多分に受けてのものであったこと、それがなかった場合どういう結果になるかを踏まえた上で、弱い者が強い者に勝つにはどうしたらいいかについて本気出して考えてみろ!改めて言う、日本は弱い!
横綱相撲で勝てると思うな!勝ちたいなら猫だましでも三所攻めでもくるくる舞の海でもなんでもやって勝つしかないんだ。

Jリーグを盛り上げろ

今これを読んでいるあなた、あなたの地元にJリーグのクラブはありますか?なかったらとなり町、となりの県には?
別に地元と関係なくてもいい、どこか応援してやってみたらどうでしょうか。そして年に1回でもいいから試合を観に行ってみてください。
あなたの応援が日本選手の励みになります。
サッカーは4年に1回だけあるものではありません。一年中あなたの身近にあるものです。
どうか日本でがんばっている選手に目を向けてやってください。

オシムへのまだ淡い期待

今年の5月3日、J1リーグ戦。屈指のタレント集団となり今季はリーグ優勝が至上命題となっている浦和レッズを破ったジェフ千葉のサッカーは、まさに脅威であった。
攻守にわたりとにかく豊富な運動量。はっきり言って手も足も出なかった浦和は、完敗を認めざるを得なかった。
このサッカーが出来てなぜジェフは首位にいないのか、と思ったほどだ。
イビツァ・オシムを日本代表監督に推す声はかねてから少なくなかった。日本代表でこのサッカーができたら…。もちろん私もそんな期待を持った一人だ。
そして思いがけずそれが現実になる可能性が出てきた。
しかし、私たちはこの4年間で学んだはずだ。過度な期待は時に絶望を生む。
現にこれを書いている間にも「断るかも」という活字が紙面をにぎわしている。
今はまだ始まってすらいないオシム・ジャパン、しかしながら淡い淡い期待を抱かずにはいられない…