モーニング娘。コンサートツアー2006春〜レインボーセブン〜:帰宅―白銀の決死圏篇―


漫然と時間が過ぎていった。
ふと目を覚ますと外はすっかり明るくなっていた。時刻は6時。
少しあたりを歩いて回ったがタイヤチェーンを売っていそうな店は見つからなかった。
もっとも、見つかったとしてもこの時間では営業しているはずもないのだが。
それにしても、夜が明けて視界が開けたことと、交通量が増えて路面があらわになってきたことで、再び走り出すことへの意欲が湧いてもきた。
とにかくこうしていても埒が開かない。すべり止めを入手するためにも、移動を始めることにした。


雪はまだ降ったり止んだりを繰り返していた。走路のアスファルトは見えているところもあればほとんど見えなくなることもあった。
慎重の上にも慎重に、しっかりとハンドルを握りしめて運転した。それは、もはやドライブと呼べるようなものではなく、生還のための命をかけた戦いであった。
途中、24時間営業のガソリンスタンドがあれば立ち寄って、チェーンが売っていないか探ってみたが、見つからない。
おっかなびっくり走っているうちに車は三条市見附市を抜けて長岡市に到達し、国道17号線に入った。
17号線といえば埼玉県内まで続いている道路であり、親近感がわいてくる。
しかし小千谷市、川口町と進んでいくにつれ道も曲がりくねり始め、危険度は増していった。
このあたりで精神的には激しく疲弊し、コンビニがあれば即座に休憩するつもりでいた。
コンビニ…コンビニ…
ない。
なんでコンビニがないんだ!?
こんだけ走ってコンビニが全然ないって…ここの人たちはどうやって生活しているんだ?
そんな不可思議さと恨めしさが入り混じった感情を抱えながら、走り続ける。
魚沼市に入ったあたりでようやくデイリーヤマザキに巡り合い、小休止をとることができた。


雪は降り続き、道路の状況もあまりよくは思えなかったが、ここまで走ってきた勢いを萎えさせたくもない。
あまり長く休憩はせずに再び出発した。
時刻は9時を回り、南魚沼市に入る。JR浦佐駅前で車を停め、会社に今日は出勤できない旨を伝えた。
このあたりは日本でも有数の豪雪地帯であるが、それだけに道路では融雪装置が施されている場所も多く、かえって走りやすいような気がした。
ぼちぼち店が開き始める時間になり、ホームセンターに入ってはチェーンを探したが、なぜか置いていない。
つらつらと走るうちに、塩沢、石打…スキー場のそばを通るようになり、いよいよ山間部である。
昼前には越後湯沢付近にまでたどり着き、マクドナルドで昼食をとった。
結局、こんなところまで来てしまった。
ここから先は、もう峠である。
すべり止めなしで、峠を越えられるのか…
だからといって止まってしまうわけにも引き返すわけにも…
策もなく、進んでいった。
いよいよ峠に突入というところで、左側に自動車整備所があり、「チェーン」の文字が目に入った。
「あ…」
しかし、私は車を止めなかった。


今さら…めんどくさい…
めんどくせえええええんだよ!!!!!ここまで来ちゃったんだからもう行っちゃおうぜ〜〜〜
ダメだったらここまで戻ってきてチェーン買えばいいんだからよーーー!
(BGM:『Driver's High』/L'Arc〜en〜Ciel)


こうして私たちは最後の難関に向かっていった。
運転歴十余年の粋を結集した峠攻め。いや、峠守り。
こう見えても今まで無事故なのが自慢である。違反も過失の一方通行違反が一度だけ。
とにかく自分を信じてシビックを操った。
それにしてもこの状況下で、後部座席で爆睡をかますゆきぽんの精神力には恐れ入る。
私だったら到底生きた心地がしないであろうと思う。
しかし、同乗者からいたずらに不安感が伝わってこなかったことは私には助けになっていたのかもしれない。
車は順調に進み、苗場プリンスホテルの前を通過した。
ここにはとんねるずコントライブを観に何度か訪れたし、娘。の野外コンサートでも一度来た。言ってみればなじみの場所である。
ここまで来ればあとはなんとかなる、私の中ではそういう感じがしていた。
三国トンネルを抜けると、群馬県みなかみ町。ついに関東に帰ってきた。
しかしここもこの冬、積雪記録を更新した地域である。油断なく山を降りていかなければならない。
しばらくは道路に雪が残っていたが、やがて雪のない濡れた路面に変わり、さらに…


完全に乾いた道路にたどりついた。
「道路が…乾いてる」
「キタコレ?」
「勝った。俺たちの勝ちだ!」
高らかに『SEXY BOY〜そよ風に寄り添って〜』をかけて、勝利を祝った。
久々に見た青空が目にしみる。
ようやくチェーン規制と関係のない領域まで脱出できたので、沼田ICから関越自動車道に乗り、赤城高原SAであいめちゃんと運転を交代した。


新潟で満タンにしたガソリンがもう残り少なくなった。
私たちは鶴ヶ島ICで高速を降りてガソリンを入れ、旅費の精算を行った。
そしてその足で、吉澤ひとみの実家であるというガセネタでおなじみ、「鶴ヶ島最中」の根岸屋菓子舗に立ち寄った。
その後一般道で更に南下、朝霞まで戻って解散。
こうして、思いのほか長きにわたった新潟遠征は終わりを告げた。
本当に、よく無事で帰ってこられたものだと思う。
ノーマルタイヤで強行突破」よい子はまねしないでね。
運転する方、チェーンは買っておきましょうね。