その女性女性ひと(ひと)は、青春の全てをモーニング娘。に捧げた。

Hello! Project 2005 Winter オールスターズ大乱舞〜A HAPPY NEW POWER! 飯田圭織 卒業スペシャル〜)

飯田圭織モーニング娘。卒業―その日をついに迎えた。
横浜へ向かう電車の中でモーニング娘。の歌を聴きながら、
私は早くも涙ぐんだりしていた。
横浜駅の雑踏に紛れ込んでいるモーヲタたちの表情も、
各々が抱えた想いを反映して、いつもとどこか違うような感じがする。


横浜アリーナの前は、卒コン特有の異様な熱気に覆われていた。
この場所に集まった者すべてが、刻一刻と迫るその瞬間を前に
最後の心の準備を整えようとしている。
入場し、座席につき、サイリウム、双眼鏡、水、タオルを用意…
やることはいつもと同じ。しかし、当然のことながら
あまりにも特別な感情が胸中を支配していた。


ライブが開始した。
客席に大きくせり出したステージ。この日のための演出だ。
距離はかなり遠かったが、飯田圭織は、ほぼ私の正面に姿を現した。
その長身、均整のとれたスタイルが、今日はやけに映える。
飯田、中澤らが歌う『モーニングコーヒー』。涙が出た。
おなじみのBメロ。ソロパートを歌うのは飯田圭織ではなかったが、
観客の思いはやがて彼女だけに向けられ、満場の圭織コールがアリーナを揺らした。


夢のように時は過ぎ、卒業セレモニーが始まった。
かの伝説となったタンポポ畑が、再び彼女を迎えた。
きらびやかなドレスに身を包んだ飯田は、しっかりと、
丁寧に、感謝の言葉を我々に伝えてくれた。
モーニング娘。メンバーが登場し、祝福と惜別の言葉を贈る。


私達が普段目にしているのは、実はモーニング娘。のほんの一部でしかない。
中澤裕子の後を継ぎリーダーとなった飯田圭織が、
実際このグループにとってどのような存在であったのか?
それを、舞台の裏側までは知るに及ばない私達が完全に理解することは
残念ながら不可能なのだと思う。
しかし、ステージの上で涙など見せたことのなかった
田中れいなが幼い子供のように泣きじゃくり、
あの藤本美貴までもが明らかに声を震わせていたのを目の当たりにして、
その答えが垣間見えたような気がしたのも確かである。


飯田がモーニング娘。で初めてソロをとった『夢の中』が披露されると、客席は白く染まった。
娘。で花開いたタンポポは綿毛となり、新しい大地に旅立っていく―――


モーニング娘。結成当時から、吸い込まれるような大きな瞳、
その眼光の鋭さが印象的だった彼女。
それゆえ、時にはいたずらに威圧感を与えることもあった。
しかしその内面は実に繊細で、傷つきやすいものであっただろうことは、
リーダー就任後間もない『うたばん』出演時に
突然泣き出したエピソードなどからもうかがい知れる。
それでもこの日まで、精一杯気を張ってやってきたはずだ。
15歳で始まったモーニング娘。
以来、彼女は青春の全てを、それに捧げてきた。


これからはどうか自分のペースで、歌いたい歌を歌い、
描きたい絵を描き、綴りたい言葉を綴ってほしい。
それらはきっと美しい花となり、また私達の目を楽しませてくれるはずだ。


卒業おめでとう。