番外編・私と近鉄バファローズの一番長い日

私が18年来応援してきたプロ野球チーム、大阪近鉄バファローズ
それが今年、経営難からオリックスブルーウェーブとの合併を余儀なくされ、
長きにわたった歴史に終止符を打つこととなった。
今日はそんなバファローズの本拠地最終戦
ファンを名乗りながらついぞ一度もホームゲームの観戦を出来ずにいた私も、
最後となればいてもたってもいられず…
夜行バスに揺られ、大阪ドームへと向かったのだった。



大阪ドームへは朝7時ごろ着いた。しかしそこはホーム最終戦
しかも自由席は入場無料となれば、さぞかし熱心なファンでごった返していることだろうと思ったが…
「閑散」…まさにその言葉がぴったり当てはまる状況であった。
「ああ、嘆かわしい。地元のファンももはや愛想をつかしたのか…」
と、人影といえばほとんど警備員しか見当たらないドーム周辺を歩きながら思った…
が、よく見ると入場口の前にはロープが張られ、床に貼り付けられたレジャーシートや段ボールがそれに沿って列をなしていた。
「なるほど、生身の人間がずっと並んでいるのはたいへんだものな…」
そうとなれば、私もいち早くその列に加わらなければならない。
「ガムテープが要るな…」はやる気持ちを抑えつつ、ドーム最寄のローソンへ向かう。
売り切れ。
「これは…急がねば」
少し離れたファミリーマートへ。「あった…」
ガムテープを購入し、小走りでドームへ取って返す。再び入場口へたどり着くと、
先ほどは気づかなかったが場所取りのシートにはいずれも同じ用紙に名前と人数、
整理番号が書かれたものが貼付されている。
「申請がいるのか…」不安を抱きながら外野席の入場待ち最後尾に向かうと、警備員が用紙を出してくれた。
名前と人数(1人だが)を記入すると警備員は私が持参したシートと整理用紙を、
その手に持ったガムテープで床に貼り付けてくれた…


「2時までに戻ってきてください。2時にいない場合は詰めさしてもらいます」
ひとまずやることはやったが、この時点でまだ8時前。ほとんどの店は10時にならないと開かない。
ならば入場口前でシートを敷いて寝転がっていれば、というところだったが、
この日は雨が降ったり止んだり。雨ざらしで横になっているわけにもいかなかった。
それからは右も左もわからないJR大正駅界隈をあっちへうろうろこっちへうろうろ…
雨が止んだかと思うと猛烈な蒸し暑さが襲ってきて、またしばらくするとしとしとと降り始める。コンディションは最悪であった。
それでもなんとか10時を迎え、ほぼ開店と同時にドームそばのマンガ喫茶に身を寄せた。
やっと一息。個室のインターネット席で、やがて私は仮眠をとり始めた。


正午前に目が覚めた。
マンガ喫茶を出て、ドームシティ内のゲームセンターで時間をつぶす。
2時15分前ごろに列に戻ると、この時には大勢のファンが軒下で雨をしのいでいた。
係員の指示で行列を作ってから3時の開場までが地獄であった。
とにかく蒸し暑い。さらに直射日光が照りつけてくる。
じっとしていても汗が流れ出てきた。


3時、ようやっと開場。中ではバファローズの選手が出迎えてくれた。
握手を交わした…が、顔を見て名前がわかるような選手達ではなかった。
やはり私は、ファン失格と言わざるをえない…
場内へ入ると、すでに席がほぼ埋まっている。
それでも運良く、よさげな場所を確保することができた。


グラウンドではバファローズの選手が練習を行っている。
ファンは思い思いに、選手たちに声をかけていた。
その中に、選手会長礒部公一の姿もあった。
礒部にはたくさんの声がかけられ、彼はその一つ一つに丁寧に応えていた。
この数週間、グラウンドの内外で選手の、そしてファンのために戦い続けていた男…
その後ろ姿を眺めていると、自然に涙ぐんでしまう自分がいた。


6時、試合開始。投手戦というよりは拙攻の応酬で、
じりじりするような展開。ライトスタンドは一つになり、声を限りに声援を送った。
やがて試合は延長戦へと突入した。
名残惜しさとは裏腹に、私は焦っていた。帰りのバスの時間が迫っている。
試合が長引くことを実は一番恐れていたのだ。
そして迎えた11回裏…
大村・星野の連続二塁打で、


大阪近鉄バファローズはサヨナラ勝ちを収めた。


ヒーローの星野おさむは泣いていた。
歓喜に沸くスタンドの中にも、涙をこぼす者の姿が多くあった。
私もその1人である。
近鉄ナインはサインボールを投げ入れながら場内を一周し、
最後の記念写真を撮影した。
時刻は10時を回ろうとしていた。
万感の想いを胸に、私は急ぎ足で大阪ドームを後にした。


この日、私が見たもの───
試合もさることながら、この大阪の地で
阪神タイガースの影にすっかり隠れてしまっていたこのチームを
長らく愛し続けていたファンの人々。
彼らは家族のような絆で結ばれており、その根は横への広がりは少なくとも、
心のずっと奥深くまで伸びていたのだと感じた。


この人たちに比べ、自分はどうだったか…
球団消滅の要因の一端は、自分にもある…
忸怩たる想いがよぎった。
しかし私は私なりに信念を持ってこのチームを愛してきたつもりだ。
だからこそ、何か別のものに変わってしまうそれを、
今までと同じように応援していくことは、できない。


この日を最後に、バファローズと決別することにした。
激動のプロ野球界。しかし今、東北地方に息吹こうとしている小さな光が、
私を呼んでいるような気がしてならない。


さようなら、バファローズ
18年間、感動をありがとう。そして、ごめんなさい。